千葉地方裁判所 昭和47年(ワ)224号 判決
主文
一、千葉地方法務局所属公証人西山家俊昭和三四年五月二六日作成にかかる公正証書第一一、二七五号による石井正次の遺言は無効であることを確認する。
二、被告は原告に対し別紙目録記載の土地について訴外石井のぶが有する千葉地方法務局市川出張所昭和三七年五月一一日受付第七、二四九号、同三六年一二月一〇日遺贈を原因とする所有権移転仮登記の抹消登記手続をせよ。
三、被告の反訴請求を棄却する。
四、訴訟費用は本訴反訴とも被告の負担とする。
事実
第一、申立て
(原告)
主分同旨。
(被告)
一、本訴請求を棄却する。
二、原告は被告のため主文二項記載の土地(以下本件土地という)について千葉地方法務局市川出張所同四二年九月五日受付第三、九三七号をもつてした同三六年一二月一〇日相続を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
三、訴訟費用は本訴反訴とも原告の負担とする。
第二、本訴請求の原因
(主位的請求原因)
一、本件土地は原告の所有である。
1.本件土地は、もと訴外亡石井正次(以下正次という)の所有であつた
2.原告は、正次の養子である。
3.正次は、昭和三六年一二月一〇日に死亡した。
4.原告は、同日、相続により、本件土地の所有権を取得した。
二、1.被告は、主文一項記載の公正証書(以下本件公正証書という)による遺言の遺言執行者である。
2.訴外石井のぶ(以下のぶという)は、本件土地につき、本件公正証書による遺贈を原因とする主文二項記載の仮登記(以下本件仮登記という)を有する。
三、1.正次は、本件公正証書の作成された同三四年五月二六日、肺結核、精神病等のため、自宅で寝ており、西山家俊公証人役場へ行かなかつた。
2.同公証人役場へ行つたのは、のぶの父訴外石井貫一(以下貫一という)、被告および訴外亡武藤藤一(以下武藤という)の三名であつた。
3.貫一は、法律的に無知な漁民である被告および武藤に対して「お前たちには絶対に迷惑をかけないから、公証人役場へ行つて保証人になつてくれ」と申し向け、その承諾を受けて、同公証人役場において、右公正証書に遺言執行者として署名押印せしめ、自らは、正次の署名を偽署し、その名下に予め盗取した正次の実印を押捺したものである。
四、被告は、右遺言の無効であることを争つている。
五、よつて原告は、形式上遺言執行者となつている被告に対し、右遺言の無効確認およびのぶの所有権移転仮登記の抹消登記手続を求める。
(予備的請求の原因)
一、1.原告は、養父正次死亡の昭和三六年一二月一〇日から同四六年一二月一〇日まで一〇年間、本件土地を、相続人である自己所有の土地として野菜の耕作等のため占有し、占有の始め善意、無過失であつたので、本件土地の所有権を時効により取得した。
2.原告は、同四八年六月一八日本件第八回口頭弁論期日において右時効を援用した。
二、のぶは、本件土地につき、前記仮登記を有し、被告はその登記原因となつている遺贈の遺言執行者である。
三、よつて仮にのぶが右遺贈により本件土地の所有権を取得していたとしても、前記のとおり原告が本件土地の所有権を時効取得したことにより、のぶは反射的にその所有権を失うから、被告は原告に対し本件土地について右仮登記を抹消する義務がある。
第三、本訴答弁
一、本訴主位的請求原因一の事実を否認する。
二、同二の事実を認める。
三、同三の事実を否認する。
第四 反訴請求の原因
一、1.本件土地は、もと正次の所有であつた。
2.正次は、同三四年五月二六日、千葉地方法務局所属公証人西山家俊作成第一一、二七五号公正証書による遺言をもつて、本件土地をのぶに遺贈した。
二、正次は、同三六年一二月一〇日に死亡した。
三、本件土地は農地であつたため、被告は、右遺言の執行者として、のぶのため本件仮登記手続をした。
四、原告は、前記事情を知りながら、相続を原因とする被告の申立て二記載の所有権移転登記手続をなした。
五、よつて被告は、原告に対し、右移転登記の抹消登記手続を求める。
第五、反訴答弁
一、反訴請求原因一の1を認め、同一の2を否認する。
二、同二の事実を認める。
三、同三の事実を認める。
四、同四のうち原告が被告主張の所有権移転登記手続をしたことを認め、その余を否認する。
第六、証拠(省略)
(別紙)
目録
市川市押切七六七番
一、田 五〇五平方メートル
市川市押切七七〇番
一、田 八四六平方メートル